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2 その結婚お断り 2

Author: 鈴田在可
last update Last Updated: 2026-03-17 14:04:36

 ナディアはある時、義兄セドリックとその友人の会話をたまたま立ち聞きしてまうことがあった。

『お前さあ、ナディアと仲良いよな。血が繋がってないし番になるのか?』

『まさか。ナディアのことは妹としては可愛いと思うけど、女としては見れないよ』

『そうだよなあ、獣人なのにあの顔じゃなあ』

 セドリックの友人の笑い声を背に、ナディアはその場から走り去った。いつもであれば馬鹿笑いするその少年の顔に鉄槌をお見舞いしている所だったが、セドリックに恋愛対象外だと突きつけられたことが衝撃的すぎて、受け止めきれずにその場から逃げるしかなかった。

 セドリックとはとても仲が良かったけれど、恋愛感情を抱いていたのは自分だけだったのだ。身の程もわきまえずに一方的にこんな馬鹿みたいな思いを抱いていたことが恥ずかしかった。風下にいたために匂いで彼らに立ち聞きをしていると気づかれなくてよかったと思った。

 ナディアのナディアの認識では自分の容姿は獣人界においては下の下の下だ。こんな醜い容姿をしておきながら、獣人として当たり前のように美しい容姿を持つセドリックと恋人になれるかもしれないなんて期待していたことが滑稽だった。

 以降、ナディアは何食わぬ顔でセドリックとその家族との生活を続けた。セドリックは直接ナディアの容姿を馬鹿にしたり意地悪することもなく、血の繋がらないナディアに対して他の弟妹たちと別け隔てなく接する優しい人だった。ナディアのことを「可愛いよ」と言ってはくれたけど、それは妹として、家族としての思いなのだ。勘違いしていた自分が馬鹿だったのだ。

 その後、ナディアはセドリックに番ができたことを祝福し、彼らの門出を見送った。セドリックとはその後も義兄妹として良好な関係を続けることができた。好きだったなんて言わなくて本当に良かったと思っている。

 ナディアはもし自分が番を持つならおそらく人間だろうなとぼんやり考えていた。仕事上、人間との接点は多かったから。

 今回のことは驚きや衝撃よりも怒りの方が強いかもしれない。危うく勝手に番を決められる所だった。

 ――この時のナディアは、自分はまだ故郷である獣人の里にいると思っていた。

 ナディアが眠る前の最後の光景は、妖しく笑うミランダと、足元で倒れている血塗れの異母弟リュージュだった。気配を探るがミランダもリュージュも近くにはいない。

 ミランダはリュージュを魔法で治したと言っていたが本当にリュージュは助かったのだろうか。

(それに、ヴィクトリア姉様のことも気がかりだわ)

 異母姉ヴィクトリアは、父シドに連れて行かれてしまった。

(貞操が無事だといいけど……)

 無理に番関係を結ばされるのは里ではよくあることとはいえ、その相手が実の父親というのはあまりに酷い。

 状況確認するべくナディアは割れた窓に近づこうとした。

(ひとまず、あの男は一体誰?)

 ここは入ったことのない家のようだが、里にあれほどまでに美しい男はいなかったはずだ。

 しかし窓辺に立つ前に、後ろに突如現れた気配にナディアは全身を強張らせた。振り返るまでもなく、獣人の並外れた嗅覚で嗅ぎ取った匂いから、そこに現れたのが先程の男だと理解する。

 男は割れた窓を通ってではなくて、いきなり後ろに出現した。

 目前で落ちていた窓ガラスの破片が浮かび上がる。

 まるで時間を巻き戻すかのように破片が窓へと吸い寄せられてピタリとはまり、元に戻った。窓にはヒビ一つ入っていない。

「酷いよナディアちゃん。いきなり殴るなんて。でもそんな勇ましい君が、俺はとても大好きだよ」

 好きだと言われて腕に鳥肌が立ち始めていた。男からの好意がナディアは受け入れられない。ナディアは恐る恐る後ろを振り向いた。

 男の頬は綺麗なままで、殴られた痕が見当たらなかった。ナディアが全力で殴ったというのに。

 男は何も着ておらず下腹部はいきり立ったままだった。その劣情は明らかにナディアに向けられている。ナディアはようやく悲鳴を上げた。

 ナディアは摩訶不思議な現象を起こした窓とは別の窓から逃げようとしたが、男に羽交い締めにされて止められる。男の力は強くて振り解けなかった。

「ナディアちゃん、落ち着いて。いきなりすぎてそりゃびっくりするよね。ごめんごめん。状況を説明させてもらうとね、俺と君はこれから結婚するんだよ」

「は? え? 結婚?」

 結婚は人間同士がするものだ。ナディアはさらに混乱した。

「そもそも、あなた誰なの?」

「君の運命の人だよ」

 駄目だ、こいつとはまともな会話が成り立たなそうだ、とナディアは悟った。

 ナディアは暴れた。たとえ最上級の美形だとしても、こちらの意見も聞かずに襲ってきて一方的に番になろうとしてくるような全裸変質者からの求愛はお断りしたい。

「ナディアちゃん、ちゅーしよう、ちゅー♡」

 裸のままの男がしまりのない顔で唇を尖らせてくるので、ナディアは顔を引きつらせて仰け反り、ぎゃあああ、と全く色っぽくない悲鳴を上げた。

 ナディアは全力で叫ぶ。

「誰か助けてーーーー」

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